今日も仕事が終わって新宿で晩御飯をを食べて帰ろうって思って、ふらふら歩いていた。
このあたりを昔から知っているおっちゃん世代なら、「アルタの裏」と言えば、なんとなく場所が浮かぶんじゃないだろうか。
そんなアルタの裏に、ひっそりと「卯作」というとんかつ屋さんがある。
ただ、この店。
初めて行くには、ちょっとだけ勇気がいる。
小さな雑居ビルの3階。
しかもエレベーターはない。

「本当にここにとんかつ屋があるのかな?」
そんなことを思いながら、少し古いかんじの看板に惹かれるように階段を上っていく。
でも、ここまで来たんだから入ってみよう。
扉を開けると、そこにあったのは、なんとも昔ながらの落ち着いた雰囲気のお店だった。
店主のおじさんと、女性のアルバイトさん。
派手な感じはまったくない。むしろ少し古い感じなんだけど、でもとっても清潔。
そして、なんというか……優しい。
昔から街にある食堂や洋食屋に入ったときに感じる、あの安心する感じがある。
メニューを開くと最初に店主敬白とあった。開店したのは平成4年12月だそうだ。

なるほど。
この雰囲気にも納得してしまう。
今日迷いながらも注文したのは、ひれかつ定食。

出てきたひれかつを見て、まず思ったのが「ちゃんとしている」。
ちょっと写真は小さく見えるかもしれないけどそんなことはない、しっかりとボリュームがある。

ところが食べてみると、これが驚くほど柔らかい。
しかも、全然油っこくない。
ひれ肉だからということもあるんだろうけど、素人の私にも、肉の下仕事を丁寧にしているんだろうな、ということがなんとなく伝わってくる。
衣も重たくない。
肉は柔らかい。
ボリュームはある。
それなのに、箸がどんどん進む。

「これはうまいなあ」
思わずそんなことを考えながら食べていた。
そして、もうひとつ嬉しかったのが、脇役たち。
山盛りの千切りキャベツはもちろん、添えられたポテトサラダがまた美味しい。
さらにサラダ用のドレッシングが2種類。
人参の風味が効いた自家製ドレッシングと、しょうゆベースの和風ドレッシング。
これだけでも十分嬉しいのだけれど、まだある。
漬物に、大根おろし。
そして酢醤油まで付いてくる。
とんかつというと、どうしても途中で少し重たくなってくるものだけど、こういうものがあると、ちょっと箸を休めながら最後まで美味しく食べられる。
たぶん、これも店主さんのこだわりなんだろうな。
「美味しいとんかつを食べさせる」だけじゃなくて、
「最後まで美味しく食べてもらう」
そこまで考えているような気がする。
そして、最後にもうひとつ嬉しいことが待っていた。
食べ終わったころに出てきた、小さなエスプレッソカップに入ったサービスのコーヒー。

これがなんだか、妙に嬉しい。
「そこまでしてくれるのかよ」
と思ってしまった。
とんかつを食べて、お腹いっぱいになって、最後にちょっとコーヒーを飲んで一息つく。
この一杯があるだけで、なんだか店を出るときの気分まで違う。
考えてみれば、エレベーターもない3階の、ちょっと入りにくいお店。
それでも平成4年から、ずっとここで続いている。
なるほどなあ。
長く続いている店には、やっぱり理由がある。
料理が美味しい。
それはもちろんなんだけど、それだけじゃない。
お客さんが気持ちよく食べて、最後に「美味しかったな」と思って帰れるように、あれこれ考えてくれている。
そんな気持ちが、料理の一皿一皿から、そして最後の小さなコーヒーからも伝わってくる。
帰りはまた階段を3階から降りる。
来るときはちょっと面倒だったこの階段も、帰りにはなんだか気にならなかった。
「また来ようかな」
そう思いながら、アルタの裏の街へ戻っていった。
こういう店に出会えるから、一人飯はやめられない。
おまけ 「卯作」って、どんな意味なんだろう?
ところで、店名の「卯作」。
なんとなく気になって、帰ってから調べてみた。
「卯」は十二支の「うさぎ」。
春の訪れや、新しい始まり、成長などを象徴する文字なんだそうだ。
そして「作」は、もちろん「つくる」。
何かを生み出す、作り上げるという意味がある。
「新しい始まりと成長」+「ものをつくる」。
そう考えると、なんだか「卯作」という名前もいい名前だなあと思う。
もちろん、実際にこの店名がそういう意味で付けられたのかどうかは分からない。
でも、平成4年からこの場所で、とんかつを作り続けているお店。
そう思って改めて「卯作」という文字を見ると、妙にこの店に似合っている気がする。
……なんてことを考えながら、最後にもらったコーヒーを思い出す。
やっぱり、いい店だったな。

コメント